DEAR 開発教育協会

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水 <解説編>
ボトルウォーター・ビジネスを考える
佐久間智子 「環境・持続社会」研究センター理事

地球環境の悪化に伴い、飲料水の確保が問題になっている。水道水を利用できるにもかかわらず、高価なボトル水により高い水質を求める人々がいる一方で、そもそも水道サービスも受けられず、割高なボトル水を買わざるを得ない人々もいる。先進国、特に日本人は前者だろうが、私たちの欲求を満たす水ビジネスの実態と、それが国内あるいは国際的にもたらす影響を知る必要があるのではないか。水がどこまでもビジネスでよいのだろうか?

国内のボトルウォーター事情

水‐ボトルウォーター・ビジネスを考える

水道水を直接飲む人が減ってきている。浄水器協会の2003年度調査では、浄水器の普及率は東京で84.4%、大阪で51.0%など都市部で高く、全国平均も3割を越えている。ミネラルウォーターなどの容器入り飲料水(ボトルウォーター)の消費は、過去18年間で18倍に膨れ上がり、昨年には146万キロリットル(=トン)、金額にして1,227億円である[※1]。比較的安全な水道が整備されているにもかかわらず、2リットルあたり200円程度という、水道水の実に500~1,000倍もの金額をボトルウォーターに支払うことに、多くの人々が納得しているということになる。

日本や米国でボトルウォーターを買って飲むという習慣が広まったのは過去10年のことだが、フランスやイタリアではすでに一人当たり年間140~150リットルを消費しており、消費は頭打ちである。この数字は2003年に米国で85.5リットル、日本では11.5リットルにとどまるが、米国の需要がここのところ伸び悩んでいるのに対し、日本の需要はまだまだ伸びると予測されている[※2]。ただし輸入品のシェアは22%とさほど高くない[※3]。

しかし、日本ではボトルウォーターの基準よりも水道水の基準の方が厳しく[※3]、安全性という面から見てボトルウォーターの方が著しく優れているという根拠は薄い。それでも増え続ける需要に応じて、飲料水業界大手は競うように各地で水源地一帯を囲い込んでいる。こうして企業によって「保全」される特定の水源に人々の信頼と評価が集中しているが、それが、水道原水の水質向上には関心を持たず、行動もしない消費者を増やしている側面がある。さらに、水源は河川や地下水脈を通じて広くつながっているため、このような企業活動の影響は工場敷地内にとどまらない。このビジネスによって、地域全体の天然水が「タダ」または格安で過剰に―自然が補給する水量を上回る率で―汲み上げられてしまう可能性は小さくない。

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インドにおけるボトルウォーター・ビジネス

水‐ボトルウォーター・ビジネスを考える

伸び悩む欧米市場に代わり、中国やインド、東南アジア諸国などがボトルウォーター・ビジネスの次なるターゲットとされるようになった。これら地域では、欧米や日本と違い、上水道が十分に整備されておらず、また多くの水道水が飲用には適していないため、安全な飲み水へのアクセスが深刻な問題となっている。下水の普及率はさらに低く、生活廃水による水質汚染も、工業や農薬などによる汚染と並んで深刻である[※5]。

実際、インドでは水道水の基準自体が未整備であり、米企業のロビイングによってボトルウォーターの基準設定だけが先行するという逆立ちした状態が起きている。厳しい基準を満たせなかった3000ほどの国内ボトルウォーター・メーカーが廃業したり買収されたりした結果、米企業のインド進出が促進された[※6]。安全な飲み水が欲しかったら外資のボトルウォーターを飲むしかない、という状況が外資自身によってつくり出されたのである。しかし問題はすぐに生じた。

同国ケララ州ペルマッティ村では、コカコーラ社の同国内最大の工場が1998年に操業を始め、17ヘクタールの敷地内で150万リットル/日の地下水を汲み上げていた。その結果、近隣の井戸が干上がり、2000世帯が生活用水を失った。農地も干上がり農業が成り立たなくなった。国内の富裕層のためにボトル入り飲料を製造している工場が、ボトル入り飲料など買えない住民から水を奪っているのである。住民は飲み水や炊事・洗濯のための水を求め、10キロも離れた水源に通わなくてはならなくなった。工場がボトルの洗浄に使った薬品は地下水を汚染した。工場が近隣住民に「肥料」として配布していた廃棄物のヘドロからも鉛やカドミウムなどが検出された。同社に抗議を続ける住民からは300人の逮捕者も出た。しかし今年1月になってようやく、州高等裁判所が同工場に対し、1ヶ月以内に敷地内の井戸からの取水を止めるよう求め、2月には州政府が雨季に入る6月15日まで井戸の使用を禁じた。

マハシュトラ州でも、州政府の優遇措置を受けているコカコーラの工場が地下水を枯渇させた。周辺住民は遠方まで水を汲みに行かねばならなくなった。タミルナドゥ州では、コカコーラの工場建設に反対して7000人が集会に参加した。ラジャスタン州カラデラ村でも、コカコーラの工場の取水によって地下水面が四五メートルも低下したという。米国の駐インド大使は、インドの首相補佐官にあてた手紙で「コカコーラ社を巡る二国間の投資に関する深刻な係争の解決」に尽力するよう求めている[※7]。米企業の利益を守ろうとする米国政府の存在が、住民の苦しい戦いを長引かせるかもしれない。

製品の安全性にも問題があるようだ。同国の環境NGOの調査は昨年2月、コカコーラやペプシなどが同国で生産・販売しているボトルウォーターに農薬が入っていたことを明らかにした。また、8月には、これら企業のものを含む他の清涼飲料水からも農薬と殺虫剤が検出され、インドの議会内ではこれらの製品が販売中止となった。原水の管理がきちんと行われない限り、ボトル入り飲料の質も保証されないという教訓とともに、グローバル企業の「二重基準」の実態が明らかにされた事件だった。

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米国内の係争

実は米国やカナダにおいても、ボトルウォーターのための取水の是非を巡り、住民と企業の間で摩擦が生じている。米国ではボトルウォーターの約25%が水道水を加工したものであり、コカコーラの「デサニ」もペプシの「アクアフィナ」もこれに含まれる。他方でネスレ/ぺリエ・グループの製品は、地下水を汲み上げたスプリングウォーターが主力であり、これが問題を引き起こしている。
米国の消費は過去二〇年の間に五倍に膨らんでいる。農業や工業に多量の地下水が供されていることもあり、全米の面積の三分の一を占める広大な帯水層からは、自然が補給する水量の八倍の水がくみ上げられているという。地下水面の低下や水の塩化が引き起こされることで、水道水や農業用水としての使用が不可能となっている地域もある。河川や湖沼の水位や水温にも変化がもたらされれば、生態系全体が多大な影響を受ける。

ボトルウォーターの水源地では、住民による訴訟が起きている。ミシガン、テキサス、ウィスコンシン、フロリダでそれぞれ争われた訴訟の全てがネスレ/ぺリエ・グループの事業に関連している。ミシガンの訴訟は、2002年に同州で操業を始めたネスレの子会社に対するものだ。地域の先住民族が原告となった裁判は敗訴した。「水源保全のためのミシガン市民(MCWC)」は、3度目の訴訟でようやく事業差し止めの判決を得たが、同社が判決差し止めの緊急仮処分を申請し、認められたために操業が続いている[※8]。

テキサスでは、1996年にぺリエが地下水の汲み上げ(34万リットル/日)を始めて4日目に自宅の井戸が干上がってしまった近隣の3家族が、操業停止と法改正を求めて訴えを起こした。同州では、私有地内での地下水くみ上げは規制できないとされていた。しかしこの訴訟を経て、同州では、「地下水保全地区」の設立を通じた規制を可能とする新法が成立した。ウィスコンシンのケースでは、住民は訴訟では負けたが、係争を嫌ったペリエ側が撤退を決めている。フロリダのケースでは、タンパ市の水道の水源地を所有する個人が1989年、湧き水から114万リットル/日を汲み上げる許可を得て、その権利(2004年まで)をペリエに転売していた。そして再び2008年まで、今度は684万リットル/日の汲み上げ許可を得ようとして却下され、訴訟を起こした。しかし、一審も二審も汲み上げ量の増加を認めていない[※9]。

これらのケースから見えてくるのは、ボトルウォーター・メーカーと契約を交わした土地所有者が巨額の契約料を得ている一方で、地下水の汲み上げの影響は辺り一帯に及ぶということと、米国の各州には地下水汲み上げを規制する適切な法的枠組みが必要とされているということだ。

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さまざまな水ビジネス

紙幅の関係で詳述できないが、ここ最近の10年間で急激に伸びてきている他の水ビジネスに、民間参入が進む水道サービスがある。また、タンカーや、長さ200メートルにもおよぶ巨大な袋に3万5000トンもの水を詰めて船で曳航する水の商業貿易も注目されている。

民営水道は過去10年で10倍の規模に拡大し、世界で四億人(既存水道全体の10%)が民営の水道サービスを受けている。その8割がわずか3社の欧州企業(仏2社、独1社)によるものだ。しかし、民営化後に料金が大きく上昇したり、約束された貧困層へのサービスが開始されなかったり、水質が悪化する、儲からなければ期間半ばでも撤退する、などの事例が相次いでいる。国連事務総長は今年3月に発表した報告書で、水道請負企業に利潤を保証するといった一方的な契約内容や、基幹インフラの民間独占、および透明性の欠如といった民営水道の諸問題を指摘し、「官民の連携(=民営化)」に懐疑的であることを明らかにした[※10]。

他方で、水の商業貿易はまだ大きな利潤を上げる産業にはなっておらず、事例も少ない。しかし世界の淡水資源の20%が存在するカナダにとっては大きな脅威である。事実、カナダは1999年に水の大量輸出(bulk export)にモラトリアム(一時停止)を宣言した。ボトルウォーターという「製品」の輸出は認めるが、水そのもの貿易はしないということなのだが、これが、米加墨の間ですべてのモノ・サービス・投資を自由化すると定めた北米自由貿易協定(NAFTA)に抵触する可能性も取り沙汰されている。実際、カナダのBC州からの水の大量輸出を計画していた米カリフォルニア州の企業が加政府の決定をNAFTA違反として国際法廷に提訴している。モラトリアムを働きかけたカナダの大手の市民団体は、水の商業貿易は富裕層にだけ水を届けるだけで、世界の貧しい人々に水を届けることには決してつながらない、と主張する[※11]。

2025年には世界人口の3分の2が水不足に苦しむようになると予測されている。今後はますます、誰が水を所有するのか、誰が水の供給に関する決定権を持つのか、ということが重要な課題になっていく。人類や生物の生存を左右する水、自然環境の基礎となる水について、私企業と富裕層だけが身勝手な使い方をするようにならないよう、各国の市民は声を上げていく必要がある。

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※1 http://www.minekyo.jp/sub3.htm
※2 清涼飲料の全種について見てみると、日本の消費量は一人当たり年間130リットルであり、一人あたり毎日356ミリリットルの清涼飲料を消費している計算になる。
※3 水分野における日本の海外影響という意味では、日本に輸入される農産品や酪農製品、工業製品の生産過程で費やされる多量の水―間接水または仮想水と呼ばれる―が大きい。この量については、年間640億立方メートル=トンという計算がある(沖大幹氏作成の図表から引用(中村靖彦『ウォーター・ビジネス』岩波書店、2004))
※4 水道水は46項目(+48項目)の基準(水道基準に関する省令)について毎月1回の検査が義務付けられている。しかし、日本では「ミネラルウォーター類」は、水道基準もしくは18項目(+4~6項目)のミネラルウォーター類の基準(食品、添加物等の規格基準)のいずれかを採用すれば良く、検査も年1回で良いとされている。後者は改定作業が進められている。
※5 世界全体では、一二億人に安全な飲み水へのアクセスがなく、トイレや下水など衛生施設がない人口は24億人にのぼる。毎年子供を中心に500万人が水不足や汚水によって命を落としている。
※6 2001.10.07. NHKスペシャル「ウオータービジネス・水を金に変える男」
※7 http://www.dayafterindia.com/september1/cold.html
※8 中村靖彦『ウォーター・ビジネス』岩波書店、2004
※9 Tara Boldt-Vanrooy, "Bottling up" our natural resources: The fight over bottled water extraction in the United States, Journal of Land Use Vol.18.2,
※10 http://www.waterobservatory.org/library/uploadedfiles/Freshwater_management_progress_in_meeting_the_.pdf
※11 http://www.canadians.org/

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DEARニュース110号(2004年8月)特集より一部再編集のうえ掲載
※ 著作権は(特活)開発教育協会が保有しています。無断で転載や複製を行うことを禁じます。

■佐久間智子(さくまともこ)
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)貿易と持続可能な開発プログラム・コーディネーター。1994年から01年まで、市民フォーラム2001で経済のグローバル化と持続可能な開発のかかわりなどについて情報提供と市民教育を行ってきた。著書に「非戦」(坂本龍一監修、共著、2002、幻冬舎)、「グローバル化と人間の安全保障」(勝俣誠編・共著、2001年、日経評論社)、「徹底討論WTO」(編・共著/市民フォーラム2001編)など。

NPO法人 「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
〒102-0072 東京都千代田区飯田橋2-3-2 三信ビル401  http://www.jacses.org/
■参考図書
『ウォーター・ビジネス』(中村靖彦著、2004、岩波新書)
『世界の〈水〉が支配される!』(国際調査ジャーナリスト協会編、佐久間智子訳、8月中旬刊行予定、作品社)
『「水」戦争の世紀』(モード・バーロウ、トニークラーク著、鈴木主税訳、2003、集英社)
■ウエブサイト
インド資料センター http://www.indiaresource.org/
水源保全のためのミシガン市民(MCWC)http://www.savemiwater.org/
日本ミネラルウォーター協会 http://www.minekyo.jp/index.htm
カナダ人評議会 http://www.canadians.org/
アメリカのパブリックシティズン(Public Citizen) http://www.citizen.org/cmep/Water/

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